The Blue Envelope #XX
#ITBS_text
暗い話なんですんません。ネットに書くこと自体適切ではない気もしています。
A Conversation with My Sis (Interrupted)
母からの電話で目覚めた。日曜の朝である。親からの急な連絡なんて、九割九分よい内容ではないことはもう十分わかっている。狼狽した母が電話越しで泣いていた。説明を受け、姉が脳梗塞を発症したこと、そして、あまり状態がよくないことを理解した。
姉はつくづく運のない人間である。振り返ると、家族において、全く本人のせいではない不運が降りかかり、厳しい状況になるのはいつも彼女であった。母はそれに全てを捧げて対応する。自分と父は変な距離でそれに関わる。昔からいつもそうである。うまくいかないこともあり、それによって今の有村家の、モニョモニョした、ややこしい状態がもたらされているとも言える。姉とほぼ全く会話をしていない時期もある。思春期の自分は未熟で幼稚であったので、無視するしか対処法がわからなかったのだ。そして、弟として、子供ながらに、無意識に、とにかく自分は手がかからないようにという強迫観念みたいなものと共に暮らしていて、それが今現在の、一人で全てを完結させようとする気質につながっている。
家族で関西に引っ越してきたことは、姉にとって大きな転機となった。元々本を読んだり、文章を書いたりするのが好きで、内向的な人間のように感じていたが、こちらに来てからは何かのスイッチが入ったように、明るく陽気な人間となっていた。人の本当の姿、なんてものはあってないようなものであるし、大抵のトラブルは環境を変えてやり直せば解決する。その後は順調そうで、楽しそうに暮らしていたので、それで良いと感じていた。彼女は東京で就職し、結婚した。
今年に入って、自分が東京のイベントに出演するたびに、姉がほぼ毎回見に来るようになった。前から時々は来ていたが、こうも頻度が増えるとやや不自然に感じていた。友達と来ていたり、一人だったりした。毎回ゲストを取れと言ってきて、図々しいなあと思ったりなどしていた。来るたびに軽く会話をした。さすがにしょっちゅう会うので、姉弟の関係で改めていうのはだいぶ変であるが、かなり仲良くなっていた。最近母と会う機会があったので「最近やたら姉が会いに来るんだけと、暇なん?」と聞くと「普通に応援してんじゃない」と返された。体に異変がある自覚があったのか、単に偶然なのかを確認する術はない。
先日、そんな姉と、O-Eastでの出番終わりに外で喋っていると、年明けの1月4日に父と三人で飲みに行こう(母がいないのがウケるが、あらゆることの解決は段階を踏む必要がある)と言い出したのだ。薄々わかっていて、なんとなく無視していたことであったが、姉は多分、家族に対して、もっといい感じになって欲しいと考えているのだと思った。なんならこの状況に対しての責任みたいなものを感じていたのかもしれない。自分に対してもそうで、関係を良好にしたかったのだと思う。そういう意味では、事はポジティブに進んでいた。根拠はなく、本当の意図は違うかもしれないが。とにかく、面倒なものを無視してばかりの自分に対して、ちゃんと向き合うガッツがあるように思えた。
今となってはである。頭蓋骨を開けるとか、足から管を通すとか、説明を受けても現実味のない話ばかりをされる。いつなにが起こるかわからないのだから後悔のないように、みたいな話は生きていればさんざん聞かされるわけであるが、実際にその意味が本当にわかるのはそうなってからである。発症は急であり、わかった時には手遅れであった。
姉はつくづく運のない人間である。またしても、全く本人のせいではない不運が降りかかり、厳しい状況になっている。
姉とのやりとりは中断されている。話すことができないからだ。再開の見込みは高くはない。が、人生はまだ続く。生きている間は、なるべく本意を汲み取って、自分のできる範囲で、希望を叶えたいとは思っている。

