The Blue Envelope #31
C4P数理モデル ver1.0
省略のないpdf版はこちらから。
pdf
以下はダイジェスト。
目的と概要
クオリティを目的とした創作を「クリエイト・フォー・クオリティ(Create-for-Quality / C4Q)」、個人性を取り出すための創作を「クリエイト・フォー・パーソナリティ(Create-for-Personality / C4P)」と定義し、それぞれに妥当な数理モデルを与えることを目的とする。
創作物の「良さ」を多次元ベクトルで表し、市場の要請を同じ空間の方向(単位ベクトル)として表すことで、数学的に一貫した形で扱う枠組みを与える。
前提:観点空間とスケールの統一
観点空間
創作物が評価される観点(脚本、演出、音色、技巧、キャッチーさ、世界観、など)を n 個選び、創作物の状態を n 次元実ベクトル空間上のベクトルで表す。観点はいくらでも増やしてよい。もちろん、現実において要素を羅列できるほど単純なものではないことは承知である。
創作物のベクトル表現
良さベクトル
創作物 X の「良さ」をベクトル x で表す。成分 x_i は観点 i における質(強度)を表すスカラーである。
クオリティ(総合力)
創作物のクオリティをノルムで定義する。
標準的にはユークリッドノルムを用いる。
補足(重みつき)
観点ごとに重要度が異なる場合は、重み w_i > 0 により重みつきノルムへ拡張できる。本書の主筋(内積と分布によるモデル化)は、重みつきでも同様に成り立つ。この重みをそれっぽくすればモデルはそれっぽくなるが、今回は考え方を示すのが目的なので今のところ真面目に考えていない。(有村)
パーソナリティ(方向)
創作物の方向(配分比率・傾向)をパーソナリティとみなし、正規化ベクトルで定義する。
このとき、作品ベクトルは「強度 × 方向」に分解できる。
市場要請ベクトルと「刺さり」
市場要請(単位ベクトル)
市場の要請を、同じ空間の単位ベクトル m で表す。成分 m_i は「観点 i をどれだけ重視するか」の比率と解釈できる。
刺さり(適合スコア)
創作物 x が市場 m にどれだけ刺さるかを内積で定義する。
m が単位ベクトルなら、角度 θ を用いて次が成り立つ。
つまり刺さりは「クオリティ Q と、市場方向との一致度 cosθ の積」として分解される。
売れ度のための変換関数(整流・閾値)
刺さり z をそのまま「売れ度」にしてもよいが、取り扱いやすくするために「非負・単調増加」を満たす変換 f を置く。
離散市場モデル(有限個のジャンル市場)
市場セグメント(ジャンル)を k=1,…,K と番号付けして K 個用意し、それぞれ「市場方向」と「市場規模(重み)」を与える。
市場ごとの売れ度と総売れ度
市場 k に対する刺さりは次である。
市場ごとの売れ度を次で定義する。
総売れ度は足し算で定義する。
市場分布モデル(連続市場モデル)
離散市場モデルは「市場を K 個に切り分ける」ため、ジャンル境界の恣意性や、極小なニッチ領域の扱いに難が出る場合がある。そこで市場を連続的な嗜好分布として扱う。
単位球面上の市場分布
市場要請方向 m は単位球面上に存在するとする。
市場の需要密度(あるいは購買量密度)を ρ(m) で表す。ρ(m) が大きいほど、その方向の嗜好を持つ需要が厚い。
総売れ度(積分による定義)
創作物 x の総売れ度を、球面上の積分で定義する。
ここで dσ は球面上の標準的な面積要素である。
クオリティとパーソナリティでの表現
x = Qp を用いると、m·x = Q(m·p) となるので、次の形でも書ける。
これは「同じ方向 p でも、Q が大きいほど広く刺さりやすいが、市場密度 ρ が薄い方向では期待値が伸びない」という直感をそのまま数式化している。すごいけど市場に合わず売れない、市場とあっているがすごくないから売れない、みたいな現象を、定義したクオリティ、パーソナリティを用いて説明できるモデルとなっている
確率分布としての書き換え(期待値表現)
市場方向が確率分布 P に従う(m ~ P)とみなし、市場全体規模を M > 0 とすると、次の期待値表現になる。
まとめ(モデルの最終形)
本書で採用する最終形は以下である(創作物・市場・刺さり・売れ度)。
以上により、C4P関連のドキュメントで取り扱うクオリティ Q、パーソナリティ p、およびそれらの市場での客観的評価との関連性をモデル化した。パーソナリティの発現にはクオリティの高さが重要でないことや、クオリティは高いが市場に刺さらないケースを破綻なく扱える。今後のC4P作文は上記のモデルを念頭に執筆を進める。(有村)


興味深い論考ありがとうございます。
私自身、動画制作をクオリティや市場原理を主目的にせず行っているため、C4P の理念には強く共感しています。
#31 で提示された数式は、創作物をベクトルとして表し、C4P と C4Q の違いを非常に明快に説明していると感じました。
一方で実践の側から考えると、C4P を継続していくためには、ベクトルの方向そのものとは独立に、生活の余裕や時間といった資本的条件が強く影響しているようにも思います。
その意味で、C4P を続けるためには、並行して C4Q 的な活動を行う、あるいは何らかの形で資本を蓄積がある必要が生じるケースも多いのではないでしょうか。
今回の数式やベクトル表現では、こうした 「継続条件としての資本」 は対象としては扱われているように見えますが、今後、この点を位置づける余地があるのか(C4P〜C4Qモデルに資本蓄積や時間変数を追加するなど)、考えを伺ってみたいと思いました。