#ITBS_TEXT
Boiler Room関連の話。おれの立場だと関係あると言えばあるし、ないと言えばない。特に結論めいたものはないです
はじめに
そもそもどういった話かというと、Boiler Room運営のSuperstruct Entertainmentが投資会社KKR Investmentsに買収されたことによって、イスラエルのジェノサイドを含む違法入植や軍需産業に間接的に関与することとなり、我々はどのような態度を取れば良いのかの議論を生んでいる、いった感じである。
個人的には、Boiler Roomに出演することや、イベント自体に遊びに行くことが戦争や差別の肯定にダイレクトにつながるとは考えていない。
親会社であるKKRは巨大なPE投資企業である。当然のようにイスラエル関連企業への投資は過去にあるし、今後もあるであろう。KKRのサイトではその投資ポートフォリオを確認できるが、巨大投資企業であるからそれはそれは手広いものである。
過去にはウォルマートから西友を買収(し2025年に売却)していたり、AlphaTheta(旧Pioneer DJ)を所有していたりもしている。現行だとかつておれが愛用していた会計ソフトの弥生や、大好きな工具メーカーの日立工機(HiKOKI)の株式を過半数以上保有していたりする。
まあ身も蓋もないことをいうと、KKRは利益目的で投資をし、ポートフォリオを組む典型的な資本主義ゲームの大プレイヤーであるので、そういった観点での批判はあって然るべきであろう。資本主義を憎むのであれば、KKRも憎し。一方で、じゃあ傘下の企業の一商売が、KKRのブランディングに貢献するかというと、そんなことはないというのが自分の考えである。例えばおれは儲けるためにS&P500の投資信託を購入しているが、S&P500を構成する企業のブランディングが直接的に自分に影響することはない。規模は違えど、良くも悪くも、資本主義ゲームに則って、発行された株式を取得しているだけで、以上でも以下でもない。西友もAlphaThetaの例からもわかる通り、利益を産むため、ポイポイと売買をする。利益第一主義、資本主義そのものである。ここに対してのスタンスはめいめいの考えがあるであろうが、まあ資本主義に殉じているだけである。
上述の通り、KKRステークホルダーにイスラエル関連企業を含むのは事実である。が、ポートフォリオを眺める限り、特段イスラエル、ないしは軍需・占領関連に分野との強い結びつきがあるようには見えない。手広すぎてそりゃあるだろうくらいの話である。露骨に関連しそうなのはHENSOLDT(独・防衛エレクトロニクス)やNovaria Group(米・航空宇宙/防衛部品)とかであろうが、食い扶持に関連するとはいえこれらの企業が戦争やジェノサイドを肯定している事実はない。WAIFUが話題に出しているGTRとかGuestyとかはただ単にイスラエルの会社なだけである。イスラエルの企業であるから、という理由で叩くのは、それ自体がレイシズムになりかねない。
こうした背景下で、消費行動は我々のイデオロギー表明においては極めて重要である。例えば、アパホテルの社長の思想が相容れないから絶対に泊まらないでおこうと思うのも、施設のクオリティとサービスの質のコスパから積極的に宿泊しようと思うのも個人の自由である。どちらも間違いではない。政治思想と資本主義的コスパのどちらを上にするかはそいつの人生次第である。どこに線を引くかは非常に難しく、個々人に委ねられる。西友で買い物している主婦を捕まえて「ここのかつてのオーナー企業はジェノサイド肯定してますよ!戦争に加担するんですか?!」と詰めるのはいささか行き過ぎであるように思えるが、じゃあスタバやマクドナルドをキャンセルするムーブメントはどうだろう?どこで手打ちにする?となった時に、資本主義やグローバリズムのクソさも混ざるのでややこしい。前にも書いたが、我々が憎むべきは国ではなく、軍事攻撃を持ってして何かを為そうというポリシーや、それを以て行動する人間であるから、そうでなければいいという方針で自分はやっている。(言葉足らずなことを承知で書くと)ハンバーガーを売ることも、DJイベントもそれ自体のコンセプトは悪ではない。だから自分はボイラールームを否定しないし、ビックマックを食う。資本主義や、アメリカ的グローバリズムのアンチをどれくらいやるかは別の話であり、今回は割愛する。
ロケット発射台
ここ最近で、Boiler Room出演を契機に活動の規模が加速度的に拡大した日本人DJとしてriria氏と¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U氏の2名があげられる。Boiler RoomにはDJの資本的価値をぶち上げるロケットとしての機能が備わっているのは事実である。もちろん出演さえすれば成功が約束されるといった類ではなく、それぞれの実力によって道は開かれたわけであるが、ロケット射出台としてのBoiler Roomの機能が首尾よく機能したのは間違いない。ここ数年で商業色が強まっているBoiler Roomにおいて、ローカルDJがグローバルに活動を拡大するための手形として、意図的であっても、そうでなくても、出演の事実が箔付けになるわけである。
ユキマツさんのこのDJすごすぎるよなー
Boiler Room Japanは誰ものなのか?
Boiler Room Japanは日本のCANTEENという会社のサポートによって運営されている。CANTEENは、メジャーインディの2項、所属/非所属といった2択ではなく、アーティストに応じた柔軟なサポートを提供することを売りとしている。がっつりフルサポートの人もいれば、イベント制作だけ、海外案件だけ、プロモーションだけ、など部分的にアーティストを補助する形も取れる。この形態の裏返しとして、いわゆる”所属アーティスト”を厳密に定義できないので、その一覧みたいなものを参照する手段がない。アーティスト側も隠してはいないが、わざわざ言ってもいない、みたいなケースがほとんどであろう。
事実として、CANTEENは自社がサポートするアーティストを積極的にBoiler Room Japanに出演させているわけであるが、これが外からでは非常にわかりにくいわけである。CANTEENは、おそらく意図的にロケット射出台としてBoiler Roomを用いる意図があり、その成功例の1人がriria氏だったりするわけである。自社サポート下のアーティストをブレイクさせる、あるいはそうでないアーティストをBoiler Room Japanに出演させて、以後の海外案件のサポートやりますよ、といった関わり方もできる。代表の遠山氏をはじめとして海外経験の豊富なメンバーもおり、そこらのメジャーレーベル比でもDJ文化への理解があるだろう。win-winの関係とも言えるし、Boiler Roomの私物化に片足突っ込んでいる気もする。
個人的な意見として、Boiler Roomというグローバルブランドをもう少し広く使って欲しいという希望がある。Boiler RoomはCANTEENショーケースではないし、そうなってほしくもない。ここで、外からは誰がCANTEEN関連アーティストかわからないことがネガティブに作用する。Boiler Roomをやりたいのか、CANTEENのショーケースをやりたいのか、海外進出の発射台を使いたいだけなのかが結果的に不透明で、それが個人的に嫌だなと思ったりする。贅沢かもしれないけど。
誰が背負うか?
Boiler Roomロケットに乗って大気圏突破を目指すのを基本的にはポジティブに捉えている。自分のようにインディペンデントで、しかも地方で好き勝手活動していると、良くも悪くも日本のシーンを背負ったり、自分への評価がシーンへの評価に直結するような自体になることはない。自分の活動規模や立場は、根性見せてなにかしらを背負う道を進んだ人の苦労によって与えられていることを常に意識している。身近な例でいうと、マルチネ軍団からメジャーの道へと進んだtofubeats、当時のウルトラ的なEDMシーンに真っ向から挑んだBanvox、女性DJとして大小問わず様々なイベントに出まくったLicaxxxなど、同世代が規模デカシーンに突入し、道を切り開いた結果、そのおこぼれや余波で自分のような地方のボウフラが楽しく音楽をやれるというものである。そこでの苦労は計り知れない。規模拡大を伴うマスへの訴求と、アングラでイズムを貫く活動は相反する部分も多いが、シーンとしては両輪で、どちらかだけが回っても前へは進めない。それぞれのロールがある。負っていない側から何かを言うのは簡単だがフェアではない。それがBoiler Roomであることは必須ではないが、誰かがロケットに乗ることは、みんなのためでもある。それをロールの分担と見るか、資本的成功の椅子取りゲームと見るかは人によるでしょう。
愛しのボイラー
いうても1ダンスミュージックのファンとして、Boiler Roomから受け取ったものは計り知れない。DJ、エレクトリックミュージック、ダンス、どこをとってもボイラーなしの世界だったら今のリテラシーが獲得できているかは怪しい。嫌なところも好きなところもあるが、完全に嫌いになることはできなさそうである。音楽のパーティで世界が平和になるといいですね、頑張りましょう。